スパイシーな日常をかみしめる

理系大学院生のほんのちょっと変わった日常

TENETは矛盾ばかりの駄作!?真剣考察

 

総評

総評は87点です.映画冒頭の科学者の発言にあるように「考えるな,感じろ」が一番似合う作品でした.難解な設定や状況を激しく切り替わる映像とともに理解しなければならず,また深く解釈しても矛盾が残る作品でした.

あえて例えるなら,「友達から結び目をほどいてほしいと複雑にからまった紐を渡されたので,いくらかほどいてあげたが,結局絶対ほどけない結び目が残り,申し訳なく本人に返した.すると,その友達がニヤっとしながら,実は自分がわざと結んだんだって言ってくるような作品でした.」って感じでした.

しかし,違う時間軸の人によるアクションを見させてもらえたのは非常に新鮮なので,映像美を楽しんでください.

あらすじ

本作品の大筋としては,未来人の生きる地球では資源の搾取や環境破壊が進行したため,人類が生きていくことができなくなった.そのため,未来人は,「アルゴリズム」を使用し,順行から逆行へと時間軸を変更することで,自分たちが生きていける世界を作ろうとした.その未来人の目的の代行人である現代人と,「アルゴリズム」の起動を阻止しようとする主人公達の戦いです.

もう少し丁寧に知りたい方のために,シネマトゥデイさんによるあらすじを引用します.

ウクライナのオペラハウスで、突如としてテロ事件が発生。現場に突入した特殊部隊に、ある任務を帯びて参加していた“名もなき男”は、大量虐殺を阻止したものの自身は捕らえられ、仲間を救うために自害用の毒薬を飲まされてしまう。しかし、その薬はいつの間にか鎮静剤にすり替えられていた。目覚めた“名もなき男”は、死を恐れず仲間を救ったことで、フェイと名乗る人物から、未来の装置「時間の逆行」を使い未来の第3次世界大戦を防ぐという、謎のミッションにスカウトされる。鍵となるのは、タイムトラベルではなく“時間の逆行”。混乱する男に、フェイはTENETという言葉を忘れるなと告げる。シネマトゥデイhttps://www.cinematoday.jp/page/A0007399

 

以降,ネタバレを含む

 

時間逆行に関する感想

この作品の感想といえば,時間逆行は避けては通れないでしょう.私なりに所感をまとめましたので,興味のある方は読んでください.

 

この世界では,「「現在」は過去への逆行を考慮した「現在」となっています」(前提A).反対の前提として,「「現在」と逆行を考慮した「現在」が異なる」前提Bとしておきます.一般に,タイムトラベルもののお話は,前提Bが採用されています.例えば,プロポーズ大作戦では,好きだった子の結婚が悲しいため過去に戻って,行動を改めます.その結果,「現在」が改善されていきます.これは,時間軸1週目,2週目といったループをつくるタイムトラベルになります.しかし,この物語では,未来の主人公はすでに自身が第三次世界大戦を防いだ事実を知っていて,その事実を再現するために逆行を使用します.これは,時間軸が1本しかなく,客観的に見たタイムトラベルといえます.この慣れない前提が非常に紛らわしいといえるでしょう.

一例として,空港にて順行の主人公と逆行の主人公が戦う場面を思い出してみてください.主人公が回転扉の前についた際に,銃痕を発見し,ニールに触るなと言います.ここで,前提Bが採用されている場合,1週目の主人公は,銃痕を発見できないのです.一方,前提Aが採用されている場合,すべては結果として「現在」に現れるため,主人公が逆行中の自身に発砲された結果が残っても不思議ではないのです.(なぜ,自身を発砲する必要があったのかは謎です.また,逆行の主人公によって発砲された痕跡は,本来であれば空港に残り続けるはずなので,順行の主人公が発見する前にはどうなっているのかは疑問が残ります.)

また,本作品中の主人公の友人のニールは,未来にて主人公と出会い,過去の主人公を助けるために逆行をしようします.実際に,ニールは,物語冒頭のオペラハウスのテロと物語終盤の最終戦争中に主人公を助けます.ここで,もし前提Bが想定されている場合(時間軸が1週目,2週目とループする場合),1週目でニールの助けの来ない主人公がオペラハウスで死んでいる可能性もあるため,前提Aが採用されています.(それならば友人のニールは作戦が成功することを未来で知っているはずなので,焦る必要ないのにとも思います.セイターにとって,逆もしかりですが,)

良い点

1 アクションシーン

空港における順行の主人公と逆行の主人公の戦いは見ものです.同じ時間軸に生きていないもの同士の格闘シーンは二度とみることはないでしょう.また,カーアクションのシーンに至っては,後々にどのようにして事象が生じているのかを話し合えたら楽しいと感じました.

2 演出

空港における飛行機の衝突シーンが見ものです.CGではなく本物の飛行機を使っているため,わくわくしました.また,時間逆行中の表現は,さすがハリウッド映画だなと思うのに加えて,いままで誰も想像したことのないような映像を見せてくれるクリストファー・ノーランの作品だなと感じました.

3 俳優,女優のかっこよさ,きれいさ

このパートは欠かすことはできないでしょう.主演のジョン・デヴィッド・ワシントンさんは,屈強な男性で,アクションシーンがとてもにあっていました.女優のエリザベス・デビッキさんは,非常にスタイルのいい女性で,どんな服を着ても似合っていました.また,セドリック・ディゴリーでおなじみのロバート・パティンソンさんの色気はたまりません.

悪い点

シンプルな内容を出来るだけ難解に表現している点です.そのため,無駄な表現が多く,ただただ視聴者を困らせるための設定が存在しています.例えば,対消滅というワードがでてきますが,使わないなら説明しないで!とも思いました.そのなかで,とくに気になった点をあげます.

1 本筋に関係のない未来の技術

物語序盤に,主人公がTENETサイドの科学者の女性から未来の技術についてのお話を聞くシーンがあります.その際に,引き金を引くと薬きょうが充てんされる銃を見せてもらいます.しかしながら,この技術は二度と作中では出てきません.本作品では逆行扉しか使わないのです.(ここで逆行扉だけ説明していれば,なんとわかりやすかったことでしょう.)そのため,未来の技術による武器を匂わせるようなミスリーディングといえるでしょう.

2 難解に表現するが,細かな点はおざなりにするところ

複雑そうな映画を作る監督だと思います.しかし,複雑そうに見えて,最後の最後で大雑把になっているところが見えます.

例えば,1)キャットが銃で撃たれた後に,逆行することで傷が癒えていくシーンがありますが,逆行中であれ,若返りはしないことが言われているため,気になるシーンの一つでした.2)最後にニールが鍵を開けに行く感動のシーンですが,裏を返せば,逆行のニールは鍵を閉めにいっていると考えられます.3)最後の時間挟み撃ち作戦を実行中に,逆行中の女性が建物の壁に取り込まれてしまうシーンがあります.つっこみどころとしては,ではその女性はいつからその壁に入っていたことになるのでしょうか.

結論

時間逆行を含め,いろいろ考えてみましたが,まだまだ矛盾点があります.おそらく,整合性のとれる解釈はできないだろうと思います.そのため,視聴中に深く考え込んでしまってはもったいないので,映像を楽しむ映画だと思います.そして,逆行の自分とのアクションや,逆行世界の描写は映画館で見てこそだなとも感じました.そのため,映画冒頭に科学者が言った「考えるな,感じろ」は視聴者へ向けたメッセージでしょう.

追記

時間逆行に関して、追記します。

この作品では、前提Aが採用されています。これはつまり、過去を変えても現在が変わらないということを意味します。例えば、この映画では、順行時に主人公が確認した現象が逆行時においても必ず生じています。(そこが面白い所でもあります。) この事実からも、前提Aが正しいと言えます。

しかし、このことを踏まえると、過去に戻って、「アルゴリズム」を揃えて、人類を滅ぼそうとしたシーンは、初めから破綻しています。なぜなら、現在があるならば、過去での人類破壊計画が失敗しているといえるからです。さらに言えば、未来がある時点で、過去での人類破壊計画が起きていないとも言えます。

きっと、未来人は逆行扉を作った瞬間に、すべて折り込み済みの未来(人類が滅亡していなく、時間が逆行していない未来)により、過去に帰る作戦の失敗を知って、落胆したことでしょう。